セールスイネーブルメントの概念と、それがいかにして営業成果の向上に寄与するかを詳しく説明します。実施に至るまでのステップ、おすすめのツール、成功事例、参考書籍について網羅的に紹介します。
目次
セールスイネーブルメント(Sales enablement)とは、営業活動の改善をするための考え方の一つで、営業活動に関するすべての取り組みをまとめて設計し、取り組みにたいする成果を数値で測定することを指します。直訳すると「Sales=営業」「Enablement=有効化する」という意味で、シンプルにいうと、営業のゴールである「営業成果の向上」につながる人材を育成する取り組みのことを指します。
例えば、営業部で新人を育成する場合、ビジネス研修や先輩社員の同行など、独り立ちするまでの社内教育プロセスはひと通りできていることが多いです。しかし、トップセールスになるまでの仕組み化ができている企業は多くありません。
そこで、導入されているのがセールスイネーブルメントです。営業プロセスを見直し、成果につながる人材を輩出し続ける仕組みづくりをすることで、営業成果の向上を目指します。営業マンの採用・育成・研修、アプローチから受注までの商談のプロセス設計、営業ツールの開発といったことを、それぞれ、人事部、営業部、情報システム部と縦割りで個別に担当し改善していくのではなく、統合的に見ることで、もっとも効果的なプランニングを行っていくということです。
セールスイネーブルメントは、海外で導入が進んでいる新しい概念ですが、日本にも徐々に浸透しはじめています。なぜ重要視されるようになったのでしょうか。セールスイネーブルメントが注目されている背景をご説明します。
マーケティングにおけるMAツールなどが普及する一方で、これまでの営業部門だけで得られる顧客情報だけでは、必ずしも効果的な営業活動に繋がらなかったことが、営業力強化を促すセールスイネーブルメントの追い風になりました。
サブスクリプションサービスの普及に伴い継続的に利用を続けてもらうためには、顧客とより密に関わり関係性を構築していく必要性があります。そのため顧客情報を把握し、全社横断的に対応できるセールスイネーブルメントの重要度が高まりました。
ネットで解決策を調べ、商品・サービスを比較検討することが当たり前の時代となっている一方で、専門家に聞くという行動は変わらず存在していることから、営業担当者が提案力を強化し「専門家」となる必要性が増しました。
セールスイネーブルメントにおいて「全体の最適化」と「数値の可視化」は成功させるための重要なポイントであり、理解したうえで導入・運用時にこの2点をきちんと盛り込む必要があります。
セールスに対して「企業全体で取り組む」ということがポイントです。営業部門だけでなく全ての部門がセールスに関係しており、各部署も含めた全体最適化を意識することが必要です。そのためにはセールスにおける各部署の位置づけや役割を明確化することが重要となります。
セールスに関わる結果はできる限り数値化しさらに可視化することが重要です。セールスイネーブルメントに関わる成果指標が社内の誰もが参照できる状態にすることで、施策全体の効果や進捗が全社的に理解され、結果として、セールスイネーブルメントに関わる人に当事者意識が生まれます。
①データベースを作成して成果を安定化
営業が使う商談資料や提案書などは、作成に膨大な時間がかかります。また、作り手によって資料のクオリティに差が出てしまい、その違いで成果も不安定になりがちです。セールスイネーブルメントツールを活用して、商談資料のベースを作成し、データを共有しておけば、いつでも高いクオリティの資料を使うことができます。安定した成果を獲得しやすくなり、準備期間の短縮にもつながるでしょう。
➁営業・マーケティングの連携
ビジネスツールを使いながら施策を思案するマーケターとは対照的に、営業はアナログ戦略を主流としている企業が多く、両者の間で戦術や考え方から大きな対立が生まれることもしばしばあります。セールスイネーブルメントで営業とマーケティング間の連携を促せば、ひとつの目標に対する手法や考え方を共有して、協力しながら施策に取り組むことができます。とくに、マーケティングによる有益な情報を、積極的に営業が取り組むことで、精度の高い戦略を講じられ、成果向上が目指せるでしょう。
セールスイネーブルメントを構築するにはステップを踏んで実施していく必要があります。
それぞれのステップにおける実施内容は以下のとおりです。
最初のフェーズは営業データの調査と収集と整備です。ここでのポイントは顧客視点で営業プロセスを管理しているかどうかで、この視点でのプロセスによっては見直しも必要となります。自社のトップセールスマンをロールモデルにする、または営業メンバーを集めて、どの活動にどういう効果があるのかなどのヒアリングを十分に行います。また営業プロセスの共通項を抽出し、どのようなデータが存在しているのか、その意味などを把握することも大切です。これらのデータとその意味を踏まえ、取捨選択なども行いながら、あるべき営業データの収集と整備を行います。
次のステップは取組を推進させるための人材設定です。会社全体の取組として社内に認知してもらうためにも、推進責任者を設定してアサインすることは必須となります。適した人材は育成が好きで、体系化思考の能力とコミュニケーション能力を持っている人です。必ずしも営業経験者の必要はありません。推進者は営業部で問題ありませんが、営業に関わる部門間での連携などを考慮する場合は、経営に直結する位置だったり、営業企画などが望ましいケースもあります。担当者の人数としては概ね営業組織の1〜3%が目安です。フェーズ①をしっかりできていれば課題は明確であるため、優先順位をつけて取り組みます。
データの準備と育成テーマ、実施担当者が決まった次のフェーズでは、まずスモールスタートで開始するためのプログラムを開発し、成功体験を生み出すことが、継続して取り組むうえで重要となります。担当者と営業メンバーの双方に「この取り組みは効果がある」と実感してもらい、社内でセールスイネーブルメントの市民権を得ることが重要です。トレーニングコンテンツとしては、営業が聞く価値があると思うコンテンツにすることを意識します。営業自身でプロセスのどこに埋め込むかを設定できるかがポイントです。営業コンテンツとしては、「事例」「競合情報」や「提案書のテンプレート」などがすぐに利用でき、効果的で、市民権を得やすいです。
ポイントはどのデータを利用するのか、予め設計しておくことです。KPIとなる指標を定めておくことが重要となります。データは取ろうと思えばいくらでも取れてしまうため、KPI設計が重要です。トレーニングの成果は比較的蓄積しやすいですが、過去の学習やトレーニング履歴は意外と散在しているため、データの取得と蓄積には設計が重要です。イネーブルメントチームのKPIや組織全体のKPIなど、各コンテンツの成果をどのデータを指標にするかをセットで考えておく必要があります。
目的は取り組みに対する経営層の賛同を得るためと、営業組織に対して周知をしてもらうことで、この取組がセールスイネーブルメントを会社で推進する最後の鍵となります。セールスイネーブルメントはサイクルを回していくのが大前提で、成果を報告し、常にプログラムを提案して賛同を得、また次の課題解決に向けて動き出すことを定例化する必要があります。PDCAが重要であり、よい成果が得られなかったとしてもその改善策を明示することで、経営幹部との一体感を醸成していくことができます。
最近では、営業活動を支援するさまざまなツール・システムが登場しています。主な種類は以下の通りです。
セールスイネーブルメントとは「営業成果の向上」につながる人材を育成するということなので、これにかかわるツールがセールスイネーブルメントツールとなります。いくつかございますが、大きく営業ツール系と営業組織育成系の二つに分けることが出来ます。
LeadGeniusはCRMなどと連携し、質の高いリードリストの作成や顧客に関する重要情報の追記などアウトバウンドセールス支援などを行えるツールです。
Copper(顧客管理)はG Suiteと連携しているので、手作業で情報を入力する必要がなくなり、その分の時間を顧客との関係構築の時間に使うことが可能になります。
ベルフェイス(Web商談ツール)は、受け手は担当者から電話で案内をうけた後、サイト上の「接続ナンバーを発行」ボタンをクリックし、4桁の番号を伝えるだけでWeb会議が出来ます。
コクリポウェビナー(ウェビナーツール)は、一般的なウェビナーツールの1/100のコストで導入することができ、マルチデバイス対応をしているのでスマホでオンラインセミナーを開催可能です。
出典:https://promote.cocripo.co.jp/
Senses(SFA)は、営業活動における様々なデータを蓄積することで、AIが次のアクションをおすすめしてくれるので、多忙な営業担当者の営業方法を育成できます。
出典:https://product-senses.mazrica.com/
Smartsheet(プロジェクト管理ツール)は、作業の計画、追跡、自動化、レポート作成を支援し組織全体を強化できます。アクションの自動化による作業効率向上や、成果の高いプロセスやチームを識別し組織全体の競争力を維持できます。
出典:https://jp.smartsheet.com/
ActiBookは営業、マーケティング、バックオフィスなどあらゆる場面でのコンテンツをデータ化して一元管理し、コスト削減やデータ活用によって業務効率化ができる電子ブック作成ツールです。出典:https://actibook.cloudcircus.jp/
参考:セールスイネーブルメントを実現する営業支援ツール比較4選!営業の様々な領域の課題を解決することが出来ます。
営業組織で必要な営業資料について、月に26時間もの時間を営業資料作成に費やしているという結果があります。また、多くの企業では、営業資料が更新されないまま営業活動を行っていたり、更新作業に多くの時間を取られていたりする実態があり、この課題をセールスイネーブルメントでは解決していくことができます。
営業担当者へのスキル指導について、マニュアル化が難しい、経験に依存する部分が多いなど様々な要因からナレッジが「属人化」してしまっているケースが多いという課題があり、それに対してもセールスイネーブルメントは有効です。
営業知識は一朝一夕で身に付くものではなく、業務経験の長さや本人の自助努力、その時々の教育体制など様々な要因によって左右されますが、それらの知識・顧客ニーズ把握の差を平準化し、全体を向上させることに対してもセールスイネーブルメントは有効です。
セールスイネーブルメントの成功事例として3点ご紹介いたします。
Sansan株式会社は、日本国内でいち早くセールスイネーブルメントに取り組みました。きっかけは、新しく参加したメンバーがうまくオンボーディングができず、一人当たりの生産性が下がってしまったことに課題を感じたことです。そこで、20名ほどの現場のメンバーにヒアリングを行い、営業組織の課題を4つに分類しました。そして人員が足りないということで、採用の改善に取り組み、月に2-3人の採用から3カ月で25人採用できました。さらに入社後の半年間のオンボーディングプログラムを作ることで、案件化率も向上しました。
出典:SELECK「「最強の営業組織」を創る!Sansan「セールス・イネーブルメント」による改革の全貌」
トランスコスモス株式会社は、Salesforceなどのプラットフォームを販売しており、100を超えるプロダクトを扱っています。それらを一つ一つ覚えるのは困難ということで、効率的に覚えたいということで、セールスイネーブルメントに取り組みました。そこで営業研修用にツールを導入したことで、営業マンのナレッジを蓄積して共有できることで、勉強の時間が減り、生産性が高まりました。
出典:riclink「100通りのサービスラインナップを日々提案⁉不可能を可能に変える「最強のデジタル提案書」とは」
凸版印刷株式会社は、御用聞き営業に限界を感じていました。そこで、セールスイネーブルメントに取り組むことで、営業スタイルを変え、新規案件数の増加につながりました。また、以前から取り組んでいた創注活動という、お客様の潜在課題を顕在化して支援する新たな需要創出型の取組みのあり方を型化することで、創注案件の誕生にもつながりました。
出典:Enablement App「印刷業から情報産業へ。進化し続ける凸版印刷の営業改革をセールスイネーブルメントが加速」
本書では、営業力強化分野の先駆的企業として知られる、アメリカのグローバルコンサルタント会社「ミラーハイマングループ」の手法を実践データや事例とともに紹介。ミラーハイマングループのCEOとしてグループを率い、営業組織のコンサルタントやリーダーを務めたバイロン・マシューズと、研究部門であるCSOインサイトのリサーチ・ディレクターとして、セールスイネーブルメントや営業管理、コラボレーション全般を扱うタマラ・シェンクによる「セールス・イネーブルメント」の超実践的ガイドブックです。
出典:きこ書房
近年、営業・マーケティング環境は大きく様変わりし、営業準備やマネジメント方法など従来の手法は、その変化にあわせる必要があります。本書では、セールスフォース・ドットコムが、自社で活用している営業プロセスモデル「The Model」を解説。営業戦略からSFA、MA、インサイドセールス、カスタマーサクセスまで、知っておきたい注目の施策を200点の図解とともに紹介しています。
出典:翔泳社
本書では、営業力強化分野の先駆的企業として知られる、アメリカのグローバルコンサルタント会社「ミラーハイマングループ」の手法を実践データや事例とともに紹介。ミラーハイマングループのCEOとしてグループを率い、営業組織のコンサルタントやリーダーを務めたバイロン・マシューズと、研究部門であるCSOインサイトのリサーチ・ディレクターとして、セールスイネーブルメントや営業管理、コラボレーション全般を扱うタマラ・シェンクによる「セールス・イネーブルメント」の超実践的ガイドブックです。
出典:きこ書房
ActiBookは営業、マーケティング、バックオフィスなどあらゆる場面でのコンテンツをデータ化して一元管理し、コスト削減やデータ活用によって業務効率化ができる電子ブック作成ツールです。
電子ブックサイトを活用することで、電子ブックのURLはそのままにPDFを差し替えるだけで最新資料に更新することが可能です。これにより、営業資料の課題であった、月に26時間もの営業担当者個人の資料作成時間を商談の準備時間や他業務の時間に転嫁し、業務効率化を促進する事ができます。チーム間での営業資料の共有が簡単にできるので、同じ資料を作成することがなくなります。社内向け資料として閲覧制限をかけて管理できるので、セキュリティも安心です。
ログ閲覧機能を活用することで、売れる営業マンがどのページをどれくらい説明しているのか可視化できます。これにより、営業担当者の属人化という課題に対し、数値化によってノウハウを簡単に共有でき、営業チーム全体の営業力強化が可能です。PDFの営業資料をメールで添付して送付する従来の共有方法では、データをダウンロードする手間がかかりますが、電子ブックではメールやオンライン商談のチャットツールなどでURLを共有するだけなので顧客満足度UPにも繋がります。
ログ閲覧機能を活用することで、どのページをどれくらい見たのか、どのリンクをクリックしたのかが分かるので顧客の興味関心に沿った提案が可能です。顧客ニーズを把握した上での提案により受注率UPが見込まれます。
テクノロジーが進化し、デジタルツールを導入する企業が増えました。ツールを活用したマーケティング活動も浸透しつつあります。しかし、いくらツールを導入しても、営業がうまく活用できなかったり、商談に結びつけることができなければ意味がありません。いままでの営業スタイルが通用しなくなっている現代だからこそ、セールスイネーブルメントで営業プロセスを見直し、全体のレベルを向上させることが必要です。セールスイネーブルメントの基盤を整理するには、時間がかかります。しかし、しっかりとしたPDCAサイクルの流れができあがれば、企業のアドバンテージとなり、次第に大きな成果へとつながるでしょう。そのためにまずは、本記事の例などを参考にセールスイネーブルメントの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。セールスイネーブルメントガイドブックは以下よりダウンロードいただけます。